母乳バンクが低出生体重児を救う!課題は安全性
母乳バンク:母親の代わりに母乳を提供する
写真は、海外で冷凍保存された母乳です。
昭和大学江東豊洲病院では、2014年より小児内科の水野克己教授が厚生労働省研究班の一員となって、「母乳バンク」の試みがはじまっています。
ここ数年、母乳の需要は急激に高まっています。理由は、高齢出産や不妊治療が多くなり、NICU(新生児集中治療室)に入院する赤ちゃんが増えてきたためです。
母乳バンクとは?
母乳バンクとは、ドナー登録したママが母乳をあずけて、必要に応じて母乳提供を行う仕組みです。
欧米では長い歴史を持つ母乳バンクですが、日本ではその取り組みがスタートしたばかりです。母乳バンクの母乳は、冷凍保存されて保存されることが一般的です。
母乳提供のメリット
早産によるリスクから赤ちゃんを守ってくれます。アメリカ(ヒューストン)のベイラー医科大学のSchanler, R .J氏の論文によると、母乳を飲んだ赤ちゃんのNICU(新生児集中治療室)入院日数の平均は、人工乳の赤ちゃんよりも短いそうです。
母乳提供のデメリット
感染症のリスクがあります。母乳は血液の一部で、血液を介して感染する感染症であれば母乳を通じて感染します。海外では、購入した母乳からの感染症で問題となっています。
母乳提供の課題
母乳提供の課題は、母乳の安全性です。母乳提供のデメリットにもあるように、赤ちゃんに良いことをしたはずな母乳が、害になってしまっては元も子もありません。今後は、安心して母乳提供を受けられる環境整備が必要不可欠です。
母乳バンクの需要
早産のリスクを軽減
昭和大学小児科の水野克己准教授は、次のように語っています。
早産で生まれた場合は、赤ちゃんが2,500グラム未満の低出生体重児になるだけでなく、母親の母乳が出ないことがあります。正確には、母親の体で母乳を出す準備ができていないケースです。
また体の働きが未熟で腸に穴があく壊死性腸炎(NEC:ネック)や未熟児網膜症、慢性的な肺の病気などのリスクが高くなります。
母乳にはこれらのリスクを下げる成分が含まれているため、出産から2~3日以内に飲ませることが有効とのことです。粉ミルクでは、こうした効果は期待できず、赤ちゃんの腸に壊死などのトラブルが起きやすくなる心配があるようです。
低出生体重児の増加
ここ数十年の間、体重が2,500グラムに満たないまま生まれる赤ちゃん(低出生体重児)が増えている傾向にあります。
その背景には、日本の食生活の欧米化や女性社会進出、晩婚化による高年齢出産など様々なことが関係しているといわれています。
低出生体重児を救うためには、母乳が効果的なことがわかっているのは確かです。この危機を日本の母乳バンクは救えるのでしょうか。早急な仕組み作りが必要とされています。
世界の母乳バンク
日本の母乳バンクはできたばかりですが、アメリカのような「母乳バンク提供者のガイドライン」を設ける必要があるのではないでしょうか。世界の母乳バンクは、日本よりもその取り組みが進んでいます。
フィンランド
ヘルシンキの母乳バンクは、約50年の歴史があります。毎朝母乳の余っている母親からお乳を集めて消毒し、母親のいない赤ちゃんに与えられています。
アメリカ
6つの母乳バンクがありますが、母乳が足りていないのが現状のようです。母乳バンクは、献血のような仕組みができていて、母乳提供者に対するガイドラインが設けられています。
母乳バンク提供者の基準、同意事項
- 健康な人
- 血液検査を受けることに同意する
- 処方薬やサプリを普段取っている方は対象外
- たばこや違法ドラッグの摂取がある場合は提供できない
- 母乳搾乳の12時間前にはアルコールを摂取しない
- カフェインの制限に同意する
カナダ
(バンクーバー)在住のEmma Kwasnicaさんが始めた「Human Milk 4 Human Babies(人間のミルクを、人間の赤ちゃんに)」は、世界52ヶ国の賛同者が活動を繰り広げられています。
母親たちは、Facebookを利用して自宅から数キロ圏内でネットワークを作り、お互いを知り合います。その後、母乳のやり取りが行れています。
ヨーロッパ諸国
最も多くの母乳バンクがあるイタリアは33箇所。ドイツには15箇所ありますが、そのうち13箇所が旧東ドイツ地域に設置されています。
旧東ドイツに圧倒的に多くの母乳バンクがあるのは、共産主義時代人口5万人以上の行政区域に母乳バンクを設置することが義務付けられていたためです。
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