カンガルーケアの効果と事故の危険性

カンガルーケアの言葉が招く、安全面での問題点

カンガルーケア中の赤ちゃん

「カンガルーケア」の言葉を初めて聞いて、何を思いますか?

「赤ちゃんが危険な状態になってしまう可能性があるケア方法」だと思う人はいないのではないでしょうか。カンガルーケアは、死んでしまう赤ちゃんもいるぐらい、リスクのあるケア方法です。

しかし、生まれてすぐからおっぱいを吸ってもらうことができるカンガルーケアは、世界中の多くの病院で実施されています。

カンガルーケアとは?

母親が赤ちゃんを乳房と乳房の間に抱いて、ママの皮膚と赤ちゃんの皮膚を接触させながら保育する方法です。この方法がカンガルーの子育てに似ていることから、「カンガルーケア」と名づけられました。

いつからカンガルーケアはじまった?

カンガルーケアは、1979年コロンビアの首都ボゴタで2人の小児科医師によって、極低出生体重児を対象にはじめられました。この病院では定員過剰、機材不足、スタッフ不足の状態で、一つの保育器に2~3人の赤ちゃんを同時に収容することも珍しくなかったそうです。

その結果、交差感染の頻度が高く、多数の低出生体重児が感染のために死亡していました。

そこで、母親には自分の体温で赤ちゃんを温めてもらう処置をとってもらいました。これにより、低出生体重児の自律哺乳が容易になり、感染源から隔離することができたため、低体温・栄養不足・交差感染による死亡が激減しました。

日本でのカンガルーケアは、1990年代母子関係の絆を深めるために、早産などで新生児集中治療室(NICU)に入院中の赤ちゃんたちへの効果が期待され、その取組みが始まりました。

病院によっては、新生児集中治療室(NICU)に入院中の赤ちゃんでなくても、出産直後の赤ちゃんにカンガルーケアを行うところもあるようです。

カンガルーケアの評価

ユニセフでは、1983年にカンガルーケアを発展途上国で推進するため、低出生体重児の保育方法として世界中に広めています。

保育器に未熟児を収容する代わりに、母親の乳房にぴったり接触させる。これには科学的技術は必要なく、コストもいらない。

カンガルーケアの導入前では、1,000g未満の低出生体重児の全員が死亡していたが、今では、その4分の3が救命されている。

その結果、1,000~1,500gの低出生体重児の死亡率は、70%から10%に低下したことを報告しています。

カンガルーケアの3つのメリット

1.呼吸が規則的になり、体温が安定する

生まれたての赤ちゃんは、何もかもが初めてですべてを不安に感じているでしょう。その中で唯一と言っていいかもしれないのが、ママの心音です。カンガールケアは赤ちゃんを子宮の中にいたときと同じような安心感をもたらせてくれます。

また産後のカンガルーケアは、ママの体温を分けることで赤ちゃんの体温を一定に維持することができます。

2.母乳保育が進む

生まれたばかりの赤ちゃんは、本能的に母乳を求めます。ママの匂いや乳首を覚えることは、脳を活性化させる学習効果もあります。

またママにとっては、赤ちゃんに早い段階で乳首を吸ってもらうことで母乳が出やすくなります。

3.親子の絆が深くなる

カンガルーケアはママと赤ちゃんが直に肌を密着させることで体温を交わし、視線を交わし合うことで赤ちゃんにもママに対する愛情が生まれます。

亡くなる、意識が戻らない赤ちゃん

カンガルーケアをめぐっては医療訴訟も起きています。中には、カンガルーケアを中止する施設も出てきました。理由は、正常な新生児がカンガルーケアの最中に容態が急変し、重症化する赤ちゃんのニュースが頻繁に報道されるようになったからです。

容態の急変は気道閉塞を起こすなど、何らかの理由で呼吸が停止してしまうことが多いようです。早く気づけば大事には至らないケースが多いですが、一定時間が経過してしまった場合は、脳に酸素が欠乏し致命的な損傷を受けてしまいやすくなります。

本来カンガルーケアは、早産などでNICU(新生児集中治療室)に入る赤ちゃんが、母親との絆を深めるためのスキンシップを指すものです。

NICUでのケアは、看護師らの経過観察の下で実施されていますが、分娩室では十分な観察がないままカンガルーケアが行われしまい、その結果、赤ちゃんの容態が急変して障害が残るケースが報告されています。

カンガルーケアのガイドライン

カンガルーケアは、上記のような危険性があることから、各産院などでは「カンガルーケアのガイドライン」を設けています。自分がお世話になっている施設では、「カンガルーケアについてどう考えているのか」を把握しておきましょう。

カンガルーケアの実績やガイドラインに不明な点があれば、担当医に声をかけて事前に確認しておきましょう。

カンガルーケアの呼び方の変更

何も知らない人が、カンガルーケアという言葉を聞いたとき「安全」や「安心」、「赤ちゃんをケアする一つの方法」などの自由なイメージを持ってしまうことに問題があります。

カンガルーケアは、本来NICUに入った赤ちゃんへの行われるケア方法だと認識される呼び方が望ましく、一般の赤ちゃんへのケア方法と区別することが必要です。

日本周産期・新生児医学会は、前者については「カンガルーケア」、後者については「早期母子接触」と呼ぶように提案しています。

もし事故が起きたとき、「そんなことは知らなかった」ではすまされません。多くの人にカンガルーケアの正しい知識を知ってもらいたいです。